元彼氏似のセフレを好きになりかけた事案
深夜0時に会いたいと言うと、まだ仕事をしていたというTは、車で家までやって来た。
明日早いから10分しか会えないと電話口では言っていたが、私を助手席に乗せると、彼は自分の家へと車を走らせた。
100人いればそのうちの90人は、彼をイケメンと形容するだろう。
そんなTは、私の元彼氏にものすごく似ている。
思わずはっとするほど綺麗な顔立ちも、抜けるような色の白さも、背丈が私とそう変わらないところも、趣味嗜好も、元バンドマンであることも、自分に圧倒的な自信を持ったその性格も。
私と同じ手段で出会った女性は全員自分のことを好きになった、とこともなげに話す姿や、端々の態度や所作に現れる尊大さは、元彼氏のことを激しく彷彿とさせた。
年齢と出身地、一浪したという経歴まで同じだったので思わず笑ってしまう。世の中にはこんなにも似た部類の人間が存在するのかと、私は感慨深ささえ覚えた。
迷うことなく私を「お前」と呼ぶ彼と寝ることは、しかしびっくりするほどたやすかった。
一度目にそうしたあと、気まぐれに会いたいと言ったかと思えば、丸一日以上返信をよこさなかったりする彼の存在は、しばらく私の頭の真ん中に居座り続けていた。
四六時中スマートフォンを気にして、連絡が来ないと思い切り落ち込んだ。私は動揺した。
散々だった元彼氏とのことが、次々とよみがえる。
なんでまた同じことを繰り返すのだと、自分の両肩をつかんで揺さぶってやりたかった。
もう尽くすのは嫌だ尽くされたいと日々切実に願っているのに、どうしてまたしんどい方へと流れてしまうのか。俺様男に惹かれるDNAでも組み込まれているのかと思う。
ともあれ深夜0時、そうして二度目に会うことになったのだった。
喋り方や言動が子どもっぽい。手をつないだあとにするそのドヤ顔をやめろ。会えたのが嬉しくてはしゃぐ反面、そうして冷静に考える自分が常にいる。
照れていないのに照れた顔、恥ずかしくないのに恥ずかしそうな素振りをするのがどんどん上手くなっている。早くセックスがしたかった。
好きかもしれないという気の迷いは、そばにいる程どんどん薄れていったので、私は少しほっとしていた。
好きじゃないけど居てほしい。埋めてほしい。体温を求め、私は彼の体に身を預けた。
脱がせる前、下着を見る人と見ない人がいる。
Tは後者だ。スウェットの下に手を差し入れるなりホックを外し、直接肌に触れてくる。
後ろから腕を回され両方の乳首を同時に転がされると、あまりの快感に私は喘ぐことすらできず、荒い吐息だけが口から漏れた。
嘘みたいに気持ちがいいと思った。始まったが最後、もうすぐこの快楽が終わることに耐えられないと思い実際口にもし、変態だねと笑われる。
さわられるの好きなの? と言うので何度も小刻みに頷いた。さわられるだけで感じちゃうの? 敏感だね。囁くようにそう言われるたび、感度が増していくのを感じる。
まるで馬鹿の一つ覚えみたいに、私の性器はどんどん濡れる。自分でもそうとわかるほど次々と溢れるそれには、果てなどないように思えてくる。
焦らし続ける彼に向かって挿れてほしいと懇願すると、誰のが欲しいのとその人は言う。
この人の名前は、なんだっけ。
一瞬、頭が冷静になる。喘ぎながら時間を稼ぐこと約1秒、そうだTだったと思い出す。
挿入後もなお焦らし続ける彼がはじめて奥に達したとき、痺れるような快感が全身に走った。
他の男ともしてるんでしょ、俺が一番いい? 俺のこと好き? と言い募りながら動くTに、息も絶え絶えに嘘を吐く。
もっと気持ちよくなれるのなら、嘘なんていくらでもついてみせる。
Tの一番好きなところは、くっついたまま朝まで眠ってくれるところだ。
抱きしめてくる腕の強さに、愛する人の顔が一瞬よぎる。
ここにいるのがその人ならばどんなにいいだろうという思惑を必死で振り払い、洗剤の匂いがするパーカーの胸に、思い切り顔を押し付けた。
翌朝、送る時間がないことを詫びながら、彼は慌てて仕事に出かけていった。
駅へと続く知らない道を、ひとりで歩く。すたすた歩く。
なんでもないようなふりをして、一度も振り返らなかった。
心の内など見せてたまるものかと思う。
全部自分で引き受けてみせる。