たぶんセフレには向いてない

22歳女子大学生、セフレたちとの奮闘記

元彼氏似のセフレを好きになりかけた事案

深夜0時に会いたいと言うと、まだ仕事をしていたというTは、車で家までやって来た。

明日早いから10分しか会えないと電話口では言っていたが、私を助手席に乗せると、彼は自分の家へと車を走らせた。


100人いればそのうちの90人は、彼をイケメンと形容するだろう。

そんなTは、私の元彼氏にものすごく似ている。

思わずはっとするほど綺麗な顔立ちも、抜けるような色の白さも、背丈が私とそう変わらないところも、趣味嗜好も、元バンドマンであることも、自分に圧倒的な自信を持ったその性格も。


私と同じ手段で出会った女性は全員自分のことを好きになった、とこともなげに話す姿や、端々の態度や所作に現れる尊大さは、元彼氏のことを激しく彷彿とさせた。

年齢と出身地、一浪したという経歴まで同じだったので思わず笑ってしまう。世の中にはこんなにも似た部類の人間が存在するのかと、私は感慨深ささえ覚えた。


迷うことなく私を「お前」と呼ぶ彼と寝ることは、しかしびっくりするほどたやすかった。

一度目にそうしたあと、気まぐれに会いたいと言ったかと思えば、丸一日以上返信をよこさなかったりする彼の存在は、しばらく私の頭の真ん中に居座り続けていた。

四六時中スマートフォンを気にして、連絡が来ないと思い切り落ち込んだ。私は動揺した。

散々だった元彼氏とのことが、次々とよみがえる。

なんでまた同じことを繰り返すのだと、自分の両肩をつかんで揺さぶってやりたかった。

もう尽くすのは嫌だ尽くされたいと日々切実に願っているのに、どうしてまたしんどい方へと流れてしまうのか。俺様男に惹かれるDNAでも組み込まれているのかと思う。


ともあれ深夜0時、そうして二度目に会うことになったのだった。

喋り方や言動が子どもっぽい。手をつないだあとにするそのドヤ顔をやめろ。会えたのが嬉しくてはしゃぐ反面、そうして冷静に考える自分が常にいる。

照れていないのに照れた顔、恥ずかしくないのに恥ずかしそうな素振りをするのがどんどん上手くなっている。早くセックスがしたかった。

好きかもしれないという気の迷いは、そばにいる程どんどん薄れていったので、私は少しほっとしていた。

好きじゃないけど居てほしい。埋めてほしい。体温を求め、私は彼の体に身を預けた。


脱がせる前、下着を見る人と見ない人がいる。

Tは後者だ。スウェットの下に手を差し入れるなりホックを外し、直接肌に触れてくる。

後ろから腕を回され両方の乳首を同時に転がされると、あまりの快感に私は喘ぐことすらできず、荒い吐息だけが口から漏れた。

嘘みたいに気持ちがいいと思った。始まったが最後、もうすぐこの快楽が終わることに耐えられないと思い実際口にもし、変態だねと笑われる。

さわられるの好きなの? と言うので何度も小刻みに頷いた。さわられるだけで感じちゃうの? 敏感だね。囁くようにそう言われるたび、感度が増していくのを感じる。

まるで馬鹿の一つ覚えみたいに、私の性器はどんどん濡れる。自分でもそうとわかるほど次々と溢れるそれには、果てなどないように思えてくる。


焦らし続ける彼に向かって挿れてほしいと懇願すると、誰のが欲しいのとその人は言う。

この人の名前は、なんだっけ。

一瞬、頭が冷静になる。喘ぎながら時間を稼ぐこと約1秒、そうだTだったと思い出す。

挿入後もなお焦らし続ける彼がはじめて奥に達したとき、痺れるような快感が全身に走った。

他の男ともしてるんでしょ、俺が一番いい? 俺のこと好き? と言い募りながら動くTに、息も絶え絶えに嘘を吐く。

もっと気持ちよくなれるのなら、嘘なんていくらでもついてみせる。


Tの一番好きなところは、くっついたまま朝まで眠ってくれるところだ。

抱きしめてくる腕の強さに、愛する人の顔が一瞬よぎる。

ここにいるのがその人ならばどんなにいいだろうという思惑を必死で振り払い、洗剤の匂いがするパーカーの胸に、思い切り顔を押し付けた。


翌朝、送る時間がないことを詫びながら、彼は慌てて仕事に出かけていった。

駅へと続く知らない道を、ひとりで歩く。すたすた歩く。

なんでもないようなふりをして、一度も振り返らなかった。

心の内など見せてたまるものかと思う。

全部自分で引き受けてみせる。


たぶんセフレには向いてない

24歳の医大生と、彼の家で会うことになった。


その町に降り立つのは三度めのことで、まだ地理がよくわかっていない。商店街をまっすぐ、そんで信号をわたって、という彼の指示に従いながら、午後10時の静かな町を一人で歩く。



部屋に入って荷物を置くなり、ベッドに座るよう促され、背後から抱きしめられてブラウスのボタンを外される。

ムードもへったくれもないその流れに、思わず笑ってしまう。キスが好きだという彼の唇に応えるうち、頭の芯がだんだん痺れていくのがわかる。ああもうすぐ楽になれる、と思う。


軽々と私の体の向きを変えて押し倒す彼は、腕が長くて背も高い。いかにも軟派な整った顔立ちをしていて、肌は浅黒く、どこをさわってもなめらかだ。


彼が見ているのは目の前に横たわる今にもヤれそうな女であって、私ではない。そういう女だと思われているし、そういう女だと思わせているのは私、事実そういう女に過ぎないのも私だ。


首筋に残る彼のものではないキスマークにも、きっと気づいていないのだろう。テレビの明かりだけが反射する、薄暗い部屋のせいかもしれないけれど。


慣れた手つきで私の服を脱がせていく彼とこうなるのは二回めだが、以前よりも性急に事を運ぶ様子に私は一瞬、醒めてしまう。

不意に泣き出したくなる。なにをやっているのだろう。自分がどうしてこの人と交わろうとしているのか、その理由が一つも見当たらなくて、焦る。



身体を弄られ肌を舐められ、挿入されているその時間だけ、私は一切のむなしさと無縁になれる。無限にも思える快楽に身を任せるそのひと時だけ、すべてを忘れられるから、何度だって求めてしまう。


まるで麻薬のようだ、と思う。始まったその瞬間から、ああ終わってほしくないと思う。途切れるのがこわい。セックスとセックスの間を埋めるかのように、やり過ごす日常の長さに耐えられない。


事を終えるなり、次の相手を見つけるためにスマートフォンを開く私は、立派なセックス依存症なのかもしれない。でも、それが悪だと一体誰が言えるだろう。軽蔑する資格など、一体誰が持っているというのだろう。



実際、いともたやすく相手は見つかる。


このときほど、女という自分の性別に感謝したことはない。

特別美人でも抜群のプロポーションを持ったわけでもない、ごく平凡な人間である自分に、22歳女普通体型というただそれだけの条件を満たしているだけで、こんなにも需要があるのだとは知らなかった。


私は顔写真すら晒していないというのに、どう考えてもイケメンハイスペックの部類に入る男性たちから、ひっきりなしにメッセージが届く。どこ住みですか? 会えませんか?

会えますよ。と速やかに返す。こんなにもわかりやすく、たやすい世界があったのかと思う。笑い出したくなってしまう。



彼がシャワーを浴びている間、まったく興味を持てないまま、私はなんとなく部屋を見回す。

脱ぎ散らかされた服があちこちに山を作り、床には誰のものかわからない髪の毛と隠毛が大量に散らばっている。この中に、私のものはどのくらい混じっているのだろう。


机の上には烏龍茶のペットボトルと医学書ティッシュの箱がごちゃごちゃと並び、その向こうにはいくつものコンドームが無造作に置かれ、私の外した腕時計とアクセサリーだけがお行儀よく鎮座している。


くっついて眠るのが苦手だという彼に気を遣い、背中を向けて目を閉じる。


程なくして、かすかな鼾が聞こえてくる。あとでもう一度しようと言ったくせにすぐ眠ってしまった彼の隣で、身体が疼く。こんなもんじゃ消えない、全然足りない、と思う。

こみ上げてくる絶望的な寂しさを飲み込んで、今日も私はひとりで眠る。



セックスはするけど手は繋がないし、快楽を求める以外の目的ではキスもしない。見つめあうこともなければ、愛の言葉を交わすことも勿論ない。


すっかり明るくなった外の世界に出ていくときになって初めて、私はその関係の歪みに気づく。