たぶんセフレには向いてない

22歳女子大学生、セフレたちとの奮闘記

たぶんセフレには向いてない

24歳の医大生と、彼の家で会うことになった。


その町に降り立つのは三度めのことで、まだ地理がよくわかっていない。商店街をまっすぐ、そんで信号をわたって、という彼の指示に従いながら、午後10時の静かな町を一人で歩く。



部屋に入って荷物を置くなり、ベッドに座るよう促され、背後から抱きしめられてブラウスのボタンを外される。

ムードもへったくれもないその流れに、思わず笑ってしまう。キスが好きだという彼の唇に応えるうち、頭の芯がだんだん痺れていくのがわかる。ああもうすぐ楽になれる、と思う。


軽々と私の体の向きを変えて押し倒す彼は、腕が長くて背も高い。いかにも軟派な整った顔立ちをしていて、肌は浅黒く、どこをさわってもなめらかだ。


彼が見ているのは目の前に横たわる今にもヤれそうな女であって、私ではない。そういう女だと思われているし、そういう女だと思わせているのは私、事実そういう女に過ぎないのも私だ。


首筋に残る彼のものではないキスマークにも、きっと気づいていないのだろう。テレビの明かりだけが反射する、薄暗い部屋のせいかもしれないけれど。


慣れた手つきで私の服を脱がせていく彼とこうなるのは二回めだが、以前よりも性急に事を運ぶ様子に私は一瞬、醒めてしまう。

不意に泣き出したくなる。なにをやっているのだろう。自分がどうしてこの人と交わろうとしているのか、その理由が一つも見当たらなくて、焦る。



身体を弄られ肌を舐められ、挿入されているその時間だけ、私は一切のむなしさと無縁になれる。無限にも思える快楽に身を任せるそのひと時だけ、すべてを忘れられるから、何度だって求めてしまう。


まるで麻薬のようだ、と思う。始まったその瞬間から、ああ終わってほしくないと思う。途切れるのがこわい。セックスとセックスの間を埋めるかのように、やり過ごす日常の長さに耐えられない。


事を終えるなり、次の相手を見つけるためにスマートフォンを開く私は、立派なセックス依存症なのかもしれない。でも、それが悪だと一体誰が言えるだろう。軽蔑する資格など、一体誰が持っているというのだろう。



実際、いともたやすく相手は見つかる。


このときほど、女という自分の性別に感謝したことはない。

特別美人でも抜群のプロポーションを持ったわけでもない、ごく平凡な人間である自分に、22歳女普通体型というただそれだけの条件を満たしているだけで、こんなにも需要があるのだとは知らなかった。


私は顔写真すら晒していないというのに、どう考えてもイケメンハイスペックの部類に入る男性たちから、ひっきりなしにメッセージが届く。どこ住みですか? 会えませんか?

会えますよ。と速やかに返す。こんなにもわかりやすく、たやすい世界があったのかと思う。笑い出したくなってしまう。



彼がシャワーを浴びている間、まったく興味を持てないまま、私はなんとなく部屋を見回す。

脱ぎ散らかされた服があちこちに山を作り、床には誰のものかわからない髪の毛と隠毛が大量に散らばっている。この中に、私のものはどのくらい混じっているのだろう。


机の上には烏龍茶のペットボトルと医学書ティッシュの箱がごちゃごちゃと並び、その向こうにはいくつものコンドームが無造作に置かれ、私の外した腕時計とアクセサリーだけがお行儀よく鎮座している。


くっついて眠るのが苦手だという彼に気を遣い、背中を向けて目を閉じる。


程なくして、かすかな鼾が聞こえてくる。あとでもう一度しようと言ったくせにすぐ眠ってしまった彼の隣で、身体が疼く。こんなもんじゃ消えない、全然足りない、と思う。

こみ上げてくる絶望的な寂しさを飲み込んで、今日も私はひとりで眠る。



セックスはするけど手は繋がないし、快楽を求める以外の目的ではキスもしない。見つめあうこともなければ、愛の言葉を交わすことも勿論ない。


すっかり明るくなった外の世界に出ていくときになって初めて、私はその関係の歪みに気づく。